素敵なこの人

鍛造ゴルフクラブ製造職人 藤本 勝也さん

藤本 勝也さん

一人ひとりに最適な
ゴルフヘッドを造る職人集団の長

ゴルフクラブの「国産アイアンヘッド製造 発祥の町」といわれる兵庫県市川町。この町で60年以上ゴルフクラブ製造一筋の藤本技工さんは、家族親族ら総出で、ものづくりを進める職人集団。理にかなった鍛治技術を取り入れた自社ブランド製品が、国内外のプロ・アマに支持されています。

兵庫県市川町は「国産アイアンヘッド製造発祥の町」なんですね

昭和初期に、市川町で度量衡器を製造していた森田清太郎さんという方がアイアンヘッドを造りはじめたのが、発祥の町といわれる所以です。森田さんはのちに大阪に移られましたが、彼の弟子たちが近隣市町村で工場を開き、うちの親父もそこで修行しました。昭和40年頃に親父は地元の市川町に戻って独立し、アイアンヘッドを造り続けてきました。当時は刀鍛冶のように鉄の塊を叩くところから始めていましたが、今は鍛造されて、ある程度形になったものを削って磨いていっています。

ゴルフ用品づくりはいろんな企業が参入しては撤退を繰り返してきた歴史があるとか

昔は生活必需品以外のものに「物品税」がかかっていて、ゴルフクラブ一本造っては税務署に申請していました。物品税が撤廃されてから多くのメーカーが参入すると、ゴルフが大衆化して、ゴルフブームに。その頃は、この辺りにもメーカーの下請けがたくさんあったけど、中国や台湾に製造を依頼されるようになって苦しい時代もありました。うちは仕事が無くならないように、親父と3人の兄弟で一念発起し、「FUJIMOTO GIKOH」の名前で細々とオリジナルブランドを始めたんです。

藤本さんと弟の芳人さん、建城さん、それぞれの妻、子どもたちも職人として活躍。お孫さんも職場に遊びにくる


鍛造し、粗く形成したものを700〜800℃に焼き戻す「火造り」。鉄の赤みが判別できる夕方からの作業になる

ブランドの特長は?

「火造り」という鍛治技術を復活させました。一度焼いた鉄を再び焼き戻し、3日3晩かけて藁灰の中でゆっくり熱を取っていきます。熱が下がる工程で内部の組織が緊密に、均一になる。すると鉄が柔らかくなり加工しやすくなるだけでなく、ボールの打感も良くなる。その打感の良さが知られるようになって、日本だけでなく、海外からも注目されるようになりました。

特許も取得されていますね

「HIA(ハーフ・イン・エア)」という技術です。ゴルファーにとって扱う難易度が高い「マッスルバック」を誰でも使えるようにと考えました。「マッスルバック」は、重心が高くてスウィートスポットエリア※が狭い。そこで、中に空洞を作ることで重量を軽くし、その分ヘッドを大きくさせ見た目にも打ちやすくしました。一個一個、お客さんの要望に合わせた重量に削っていくので、大手ではできないと思います。

※クラブヘッドのフェースの芯、クラブのポテンシャルが最大限発揮できるポイント

甥の誠也さんはクラブの組み立てと、藤本技工内に開校したSEIYA GOLF STUDIOでコーチングプロを務める

ゴルフヘッドが完成するまでの工程は?

ざっと60工程あります。まずはフィッティング。お客さんにどんなクラブが合うのか、試打してもらい分析します。その結果をまとめた仕様書をもとに、アイアンを研磨し、スコアライン(フェースに刻まれた溝)を入れ、一本一本のロフト角(飛距離やスピンに影響を与える角度)やライ角(構えた時のシャフトの角度)を調整する。一つのクラブを一人で造って完結すると、ゴルフクラブセットを組んだ時、アイアンの番手によって品質がバラついたり、打感が異なったりします。当社では、各工程に専門職人がいるから、全員が全商品全番手に関われる。そうすることでクオリティを一定に保てるんです。

一つひとつ研磨していきながら、重量を調整し仕上がりの形にしていく。軍手を通した摩擦熱が研磨職人の指をつくっていく

藤本さん自身は、研磨専門の職人ですね

規定の重量に合わせるために、研磨機を使って1g単位で磨いて調整し、形も整えていきます。物によっては100gくらい削るので、火傷で指が膨れる。治ったらその部分が硬くなって、また火傷して…いつの間にかこうなりました(指を見ながら苦笑)。


実物を見たい時はどうすれば?

うちに来ていただくか、OEM生産をしている第一ゴルフさんの店舗に行かれるといいと思います。完成まで大体1~2カ月。ウェッジ1本だけだったら、朝聞いて、夕方には持って帰ってもらえる日もあります。

ちなみに、藤本さんのゴルフの腕前は?

一応するけど、下手くそ(笑)。僕の信条としては、(職人は)ゴルフは上手くない方がいい。上手くなったら、「私はこうしたら上手くなった」とか「こういうクラブがいい」とか自分の考え方が入ってしまう。人に意見を言えるような腕じゃないから、お客さんの話を聞く。そして、お客さんの要望を正確に表現し、お客さんの言われたとおりのヘッドができたら「職人」。だから、楽しいゴルフができたらそれでええんです。

■ 取材を終えて

「一人ひとりの要望に応える」と口で言うのは簡単です。しかし、「FUJIMOTO GIKOH」のゴルフヘッドは、藤本さんとご兄弟、ご家族やスタッフの皆さんの「一人ひとりが専門職」という誇りと技術をもって、一つひとつの要望に応え続けてきたからこそ、多くの人の厚い支持を受けています。作業場の大きな窓の向こうには、広々とした田園風景。世界で飛躍するゴルフヘッドが、今日もこの作業場で磨かれています。

■ プロフィール

1955年兵庫県市川町生まれ。高校卒業後、ゴルフクラブ職人の父と家業を担うつもりだったが、ゴルフ業界が不況に陥り、運転手やガソリンスタンド勤務などを経験。
その後、父と兄弟3人で自社ブランド「FUJIMOTO GIKOH」を始動。「火造り」と呼ばれる、昔ながらの鍛治仕事を施したヘッドは、上級者好みのシャープな打感が人気で、近年はとくに海外からの支持が厚い。市川町在住。

息子の雄介さんはフィッティングと火造り担当。「本当は僕らの代で終わるつもりだったけど、息子たちが継ぎたいと言ってくれた。嬉しいことやね」

■ 問い合わせ

有限会社 藤本技工
兵庫県神崎郡市川町上田中133-1
TEL:0790-26-0297
営業時間:午前9時~午後6時
定休日:土曜日/日曜日
https://www.fujimotogikoh.co.jp/